はじめに
新規事業開発において、自前主義ではなく、他社と積極的に協力することで事業化速度を上げることは当たり前になってきました。
しかし、物事を前に進めることを重視しすぎて、
「知財の帰属や取り扱いは別途協議」
「技術成果は共有」
という契約に安易にサインしようとしていませんか?
それ、科学技術を武器にする新規事業においては、取り返しがつかなくなる恐れがあります。
相手方との関係性も考慮して・・・と言うのは分かるが、無責任に締結した契約が後々、あなたの会社・事業の可能性を狭めてしまうかも。ミスを恐れずトライするのが重要な新規事業・起業においても、例外的に「取り返しがつかない」「失敗してはならない」タイプのイベントが、知的財産・契約です。

高度な科学技術を利用した新規事業開発・起業
ディープテックという言葉は、2015年頃から世界的に使われるようになりました。
ディープテックスタートアップとは、大学や研究機関の高度な科学的発見・技術(AI・ロボティクス・量子技術・バイオなど)をもとに、社会・産業界の根本的な課題解決を目指す企業のことです。
この手の新規事業においては、コア技術を「自由に広く」展開できるかどうかが極めて重要になります。

取り返しのつかないこととは?
新規事業開発や起業では、ミスを恐れずトライすること、失敗してみることが重要だと思っています。
論理的に思考し、効率的に進めるに越したことはないですが、人間はそんなに頭が良くないし、曖昧で行く先が見えないからこそ楽しいことも多い。やってみないと分からないし、失敗は、自分自身だけでなく会社にとっても学びになることも多い。そのため、基本的には、現実的に実行可能な範囲でどんどんトライし、失敗して学んだらいいと思いますが、新規事業開発・起業の初期には、例外的に”失敗してはならない”タイプのイベントがいくつかあります。
例えば、資金調達の手段として社外からの出資を利用する場合、資本政策は“やり直しの効かない”イベントのひとつです。

そして、案外見落とされがちなもうひとつの論点が、“知的財産(以下、知財)”です。
より具体的には、企業や大学など社外ステークホルダーとの契約において、安易に「技術成果・知財の共有・別途協議」を受け入れてはならないということです。

開発成果・知的財産権の共有はなぜNGなのか?
これを理解するうえで、知財(主に特許)を共有とすると何が困るのか、以下のとおり説明します(日本国内の場合)。

このように、共有とすると、自己実施は自由であるものの、第三者へのライセンス、権利行使、譲渡など極めて多くの事柄について相手方からの承諾を必要とし、アクションが制限されることになります。
新規事業・スタートアップの多くが、ビジネスモデルが固まっていない/ピボットの可能性をはらんだまま走る性質を持っています。
現時点では、「素材を売ろう」と思っていたとしても、数年後には、その素材に関する特許の実施権を売ろうとしているかもしれません。しかし、その素材に関する特許を第三者と共有していた場合、ライセンス/譲渡は制限されることになります。すなわち、知財の共有は、潜在的な事業リスクを生じます。
なるべく多くの選択肢をもつことが経営の鉄則であるなか、成果・知財の共有はそれを狭めるということに他なりません。同様に、「別途協議」という文言も、ただ契約合意を先延ばしにしているだけであり、知財の共有も含めたリスクを保有し続けることに等しいと考えています。
なお、知財共有について、大企業(特に製造業メーカー)は大した問題としないことも多いように思います。彼らにとって、事業化後の知財の主な使い道は、“自己実施”だからからもしれません。つまり、共有特許にもとづく製造・販売が彼らの目的であり、自己実施する限りにおいてはあまり障害はないということです。
つまり、知財共有という言葉の重みについて、新参者と既存の大企業とでは大きな差が生まれうることを契約交渉当事者は理解しておく必要があります。さらに、単独所有特許と共有特許とで何が異なるのか、そもそも知らない方々も多いのが世の中であることを理解しておくべきです。
どうすればいいのか?
自らがファウンダー・発起人となる場合は、関わり始めのごく初期から、知財戦略への注意が必要です。
自社工場で素材を製造するのか、素材を製造する装置を販売するのか、第三者への製造委託か、ライセンスか。そして、そのなかで自由度を死守したい領域はどこか、などよく考える必要があります

製造業の場合、主な知財は「物質」「製法」「装置」です。それぞれに分けて、自社のあるべき姿を考えましょう。
まず、単独所有する必要があるか、第三者と共有または第三者が単独所有していても問題ないか。
次に、自社が単独所有する場合、特許として権利化するのか、ノウハウとして秘匿化するのか。
それを実現できるように、自社の契約ひな形を検討しましょう。
適当にネットでダウンロードしたNDAひな形を使うのはNGです。
契約相手も人間であり、相手にも当然譲れない部分があります。私は、自社のスタンスを押し通す強気な交渉スタイルを勧めているわけではありません。
何も持たない者は交渉優位も得られないからです。まず私が勧めるのは、ごく初期のコア技術、Background IPを作る過程は、何とか自社単独で権利を確保することです。
ただし、新規事業やスタートアップは、視界不十分な状態でも走らなければならず、5年、10年と研究開発に勤しむことはできません。とりうる事業の姿から逆算して最低限安全といえる状況を、最短で作ることが求められます。
コア技術が他社との共有となりうる契約を安易に結んでしまう
何も持たないのに、そして根拠もなく、「自社単独所有」など強気で強引な交渉姿勢を貫く
最後に
新規事業・スタートアップの真価は、技術を育て社会価値につなげることにあります。だからこそ、知財の扱いは偶然や慣習に委ねず、自社の未来を守る戦略として慎重に設計していきましょう!
