※ これまでの個人的な経験に基づいた、個人の見解です。
※ 組織論(研究所→事業部移管とか経営トップのコミットメントが必要だみたいな話)ではなく、現場レベルでどう事業性を担保するか、という実務寄りの話です。
はじめに
技術立国・日本。
製造業は長らく、この国を象徴する産業でした。
しかし、化学産業を例にとっても、コンビナートで大量生産されてきた汎用化学品は縮小・再編が進み、世界の中心は海外へと移りつつあります。これは化学業界に限った話ではありません。

多くのメーカーが、
- コモディティ事業の整理・縮小
- 高付加価値事業への転換
- 継続的な新規事業創出
を迫られています。
生成AIの登場によって、技術要素の強い分野でさえ、製品ライフサイクルは短くなっているように感じます。
「良い技術をじっくり育てれば勝てる」という前提は、徐々に通用しにくくなってきています。大企業となればなるほど、新規事業は、いかに買い物上手になるかの様相を呈してきました。
一方で、自力で成果を出している企業もあります。
日東電工社は、「グローバルニッチトップ戦略」を掲げ、数多くの世界シェアNo.1製品を生み出してきました。
味の素社は、食品会社という枠を超え、1990年代から育ててきた半導体材料事業を大きく開花させています。
しかし、世間に出るのは成功例ばかりです。
その裏には、数えきれないほどの“当たらなかった研究テーマ”があるはずです。
私はJTC2社、スタートアップ2社と渡り歩き、一貫して製造業に関わってきましたが、
「儲かる匂いのする研究テーマ」を最初から設計することは、日本人の不得意分野ではないかとすら感じています。
「事業という変数に左右されずに育った、尖った技術」
「あえて行く先を決めない、曖昧さ」
を美化するような発言も、実際のところ少なくありません。
その中で私が常に考えてきたのは、
開発着手時点から、事業性・市場性を内包した研究企画ができないか
という問いです。
大学発スタートアップが増え、研究成果を起業家が事業化する流れは強まっています。
しかし、私が考えたいのは「大学→企業」のバトンではありません。
一企業の中で、研究テーマを立てるその瞬間から、どこまで事業性を織り込めるか。
既存事業の延長であれば、市場や顧客情報は豊富に社内にありますから、事業性を織り込んだ開発企画をすることは容易です。
しかし、未踏の新規事業領域ではどうでしょうか。
研究(理系)と事業(文系)の越境が少ない日本企業においては、
事業性を厳密に詰めてから研究テーマを立案する文化は、まだ十分とは言えません。
もちろん、誰も調査していないわけではありません。
「それ、本当に売れるの?」「ウチの会社がやる意味あるの?」と上司や決裁者から問われる以上、調査・検討はむしろものすごくやります。
ただ、多くの場合、「それ実現してくれたら、買います!」という熱狂顧客を先に見つけておくまでには至っていないのではないでしょうか。
そこで本記事では、企業における研究テーマ立案の段階で、どうすれば事業性を強められるのか、
私なりの実務的な視点を整理してみたいと思います。
よくある失敗例
1) 市場規模の調査で満足してしまう
脱炭素、AI、バイオ、次世代半導体、サーキュラーエコノミー。
市場レポートやコンサル資料を読み込み、「フンフン、市場規模が数千億円でCAGRは10%超えか、これなら上層部を説得できそうだ」と納得する。
しかし、それは御社がプレーされようとしている母体市場が良いことの証明でしかなく、
御社が商売で勝てることの証明ではありません。
大きな市場ほど競争も激しい。
「伸びる市場」と「勝てる市場」は別物です。
2) マクロ情報の調査で満足してしまう
バリューチェーンを整理する。各工程ごとの課題を書き出す。自社のアセットを重ね合わせる。
「この工程は非効率だ」
「この部分は人手依存が強い」
「ここに自社の技術がハマるかもしれない」
ここまで整理してGOとしていないでしょうか。
確かに、このプロセスは重要です。絶対にやるべき。
しかし、それはあくまで“構造上の隙間”を見つけたにすぎず、“お金を払う顧客”を見つけたわけではありません。コンサルや調査会社のレポートは、事業機会を見つけるには良いでしょうが、顧客の存在を確約してくれるわけではありません。
3) インタビューしてイケる気になってしまう
ビザスクで有識者インタビューを行う。潜在顧客100人に会う。
「それはニーズありますよ」「面白いですね」と言われる。
そして、「イケる」と判断する。
しかし、有識者は責任を負いません。
本当に重要なのは、“顧客が自腹を切るかどうか”です。
インタビューは重要ですが、
それは仮説を磨くプロセスであって、ゴールではありません。
どうすればいいのか? ~私がすすめる研究企画法~
私が強く勧めたいのは、
作る前に売ってみる
ということです。つまり、開発着手前に、潜在顧客を確保すること。
「こういう技術を開発予定なんだけど、買いたい?」と売り込むのです。(実際の売り込み方や話し方は、様々なやり方があります)
理想的な潜在顧客とはこうです。
・(Must have)サンプル評価や実証試験に付き合う意思がある
・(Must have)事業化後、購入する意思がある。何がどうなれば買うのか、基準を明示してくれる。
・(Nice to have)実現を早めるために、開発費用も負担したい(自社として受け入れるかは別として)
特に「お金を払ってあげるから開発して」とまで言ってくださる顧客は、100人に1人の熱狂顧客です。
こうした企業を、研究開発着手前に少なくとも1社は見つける。できれば複数見つけて、再現性を確認する。
ここまでできれば、研究テーマの精度は劇的に上がります。
研究テーマは、オフィスの中で磨くのではなく、市場にどんどん出て磨きましょう。
売れる技術にすればいいにはどうしたらいいか、過去のポストも良かったら参考にしてくださいね。


