はじめに
5年間、日夜開発してきた。
技術的な新規性もある。特許出願も済んだ。社内評価も悪くない。
「よし、今日からいよいよお客さんに売り込むぞ。」
そう意気込んでプレゼンを始めてみたものの、思ったほど反応が良くない。
質問は出るが、次につながらない。
そもそも関心を持ってもらえているのかも怪しい。
「苦労して長年開発してきたのに、フタを空けてみたら全くお客さんに刺さらず」というようなことは、国内製造業のR&D部門ではしばしば起きているはずです。
そして正直に言うと、私自身も例外なく、この罠にハマってきました。
どうしたら市場・顧客が望むような技術を開発できるんだろう、と社会人になってから14年間、さまざまな立場・形で考えてきました。
ダメなケース
技術シーズの事業化を試みる場合に、よく見る失敗パターンがあります。
① ○○を広めたい
顧客の課題を解決することや儲けることではなく、技術の社会実装が動機になっているケースです。
これは研究者として、極めて真っ当な動機です。
ですが、事業の文脈では致命的にズレることがあります。
顧客は「良い技術」を買うのではなく、自分の課題が解決されることにお金を払います。
技術への想いが強いほど、
「なぜそれが相手にとって必要なのか」を
後回しにしてしまいがちです。
技術は何かを成し遂げるための手段にすぎないことを忘れてはいけません。
② 『確かにそんな製品あったらいいですね! (買うとは言ってない) 』を信じすぎる
ヒアリングした潜在顧客から、こんな言葉をもらった経験はないでしょうか。
- 面白いですね
- リリースしたら買うかもしれないです
潜在顧客も悪気はありません。わざわざ熱心にヒアリングをしてくれている相手に対し、「買いません」「不要です」とはなかなか言いにくいですよね。
しかし、「あったらいいな」程度のもの、顧客がお金を払ってでも解決したい課題に刺さっていないものは売れません。
では、どうすればよいのか?
数多く失敗や試行錯誤を繰り返してきた中で、今は意識的に次の点を確認するようにしています。
私がご支援させていただく場合、一番初めにお伺いする質問です。
- どんなにニッチでも良いから、独り勝ちできるのはどこか。その技術にしかできないことは?
- 他の技術に出来ない理由は何か。
代替手段がある限り、価格競争に巻き込まれます。
たとえ、限られた領域でも、独り勝ちの状況を作れれば、
あなたは価格交渉権を持つことができます。
良くない例:頭痛薬(クリックすると展開します)
極端な例ですが、頭痛薬には様々な商品があります。バファリン、ロキソニン、イブ。
細かくはそれぞれ違いがありますが、いずれも目的は頭痛など痛みの解消で、選択肢が豊富です。
例えば、あなたの事業アイディアが『美味しい頭痛薬』なら、他社品とは大きくは変わらず、横並びで比較されることになります。

近年は、新規事業開発の方法論がかなり普及し、
「顧客の課題」に着目することは当たり前だと思う方もいるでしょう。
しかし、その課題に対して、
- 顧客がお金を払ってでも解決したいか
- 解決した場合の経済効果は、顧客にとってインパクトがあるか
まで、明らかにできているでしょうか。
顧客がお金を払ってでも解決したいのかどうかは、
現時点から顧客が何らかの代償、損失や解決策へお金を投じているかどうかで判断すると分かりやすいです。
また、私たち一般消費者にとって、万円単位のインパクトは大きいですが、法人にとっては誤差の世界です。法人、特に大手企業を相手にする場合は、あなたのソリューションを提供することで、最低でも数億円規模のインパクトが必要でしょう。
良くない例:満員電車(クリックすると展開します)
満員電車は誰もが嫌です。
でも、多くの人は車を買ったり、引っ越したりせず、我慢して乗っています。
不満はある。でも「お金を払うほどではない」。

- 貧困を世界から無くしたい
- ゴミのない世界を作りたい
志高いビジョンは、新規事業開発のエンジンになります。
しかし、まずは商売が成立しなければなりません。顧客の課題を解決した対価としてキャッシュを得て、会社を成立させて初めて、自分のやりたいことができるようになります。
事業立ち上げ初期は、事業規模は大きくありません。
さらに、新しい技術は、しばしば従来の陳腐化した技術よりもコスト高になります。
したがって、事業初期ほど、付加価値の高いアプリケーションを狙うべきだと考えています。
あなたが提供した解決策の対価を回収する機会を最大化するためです。
良くない例:コメの価格安定化のための大量栽培技術(クリックすると展開します)
社会的には正しい。
しかし、植物工場をはじめ新しい栽培技術は、従来の露地栽培にはコスト競争力で勝てません。

技術が良くても、顧客が対価を払うことが難しければ、事業にはなりません。
技術を投入する場合、まず市場に誰がいるのか。そして、誰がお金を持っているのか。
バリューチェーン内の様々なプレーヤーに接触し、『困っているお金持ちは誰か』見極めることが重要です。
良くない例:一般家庭向け介護ロボット(クリックすると展開します)
私も介護経験がありますが、要介護者の姿勢を変えてあげたり、持ち上げてあげたりと、力仕事は頻繁に起きます。高齢化社会の日本では非常に重要です。
一般家庭には介護ロボットを導入するだけの余裕はないでしょう。では顧客は誰になるか、国か自治体か。

