契約交渉で病みかけた私が、いつからか”ゲーム”だと思えるようになった理由

目次

契約交渉は孤独で苦しいものだった

契約交渉がツライ。

相手方からのメールを開くたび、胃がキリキリする。

どの会社との契約も、最終合意版の姿がバラバラ。
自社にとって大事な条文が、結局相手方によって変えられてしまう。

契約案を一文字でも変えられたら嫌な気持ちになる。
大事な条文の修正を飲むことで、命を取られたような気持ちになる。

顧客と社内経営陣/法務との間に板挟み。
みんな言いたい放題。振り回されっぱなしだ。

研究一筋だった私が、30歳で転職したディープテックスタートアップで、事業開発(法人営業)をしていた頃の話である。同じような苦手意識を持っている方は、多いのではないだろうか。

しかし、ある頃から、私は契約交渉を「ゲーム」に近いものとして捉えられるようになっていった。

もちろん、今でも嫌な交渉はある。

ただ、昔のように「契約案を一文字でも修正されたら負け」という感覚は無くなった。

締結した契約にも安定性が出てきた。
自社として守るべき条項も、かなり整理されてきた。

なぜ、契約交渉はゲームになったのか

なぜ、そのような変化が起きたのか。

今振り返ると、理由はシンプルだった。

当時の私は、「どんな状態が勝ちなのか」を自分で定義できていなかったのだ。

そもそもゲームとは、「一定のルールに従って、勝ち負けを競う遊びや競技のこと」とされている。

私は、この【ルール】【勝ち負け】という言葉にヒントがあると思っている。

当時の私は、契約案を一文字でも修正されればすべて嫌だった。
こちらの要求が100%通ることが「勝ち」だと思っていた。

そして、自社にとって重要な条文の修正を飲むことは、命を取られるような感覚に近かった。

それはなぜか。

そもそも私の頭の中に、「どんな状態が勝ちなのか」という指針、すなわち“ルール”が無かったからだ。

だから、一文字でも修正されれば「負け」だと感じてしまっていたのだ。

契約交渉というと、「勝つか負けるか」の戦いのように感じる方も多いと思う。

しかし、アライアンス・共同開発における契約交渉は、本来、訴訟や裁判とは違う。

これから長期間、一緒に事業を進めていくための「協業条件の整理」に近い。

だから本来、「全面勝利」は存在しない。

その代わり、それぞれの会社には、

守りたいこと
譲れないこと

が存在する。

つまり、契約交渉で本当に重要なのは、「全部通すこと」ではなく、“自社にとって何が本当に重要なのか”を明確にすることなのだと思う。

つまり、譲れないラインを定義することによって、勝ち負け(受け入れ可/不可)を、自分たちで判断できるようになるのだ。

譲れないものは譲れない。

どうしても合意に至れないなら、それは仕方がない。

そう思えるようになってから、私の中で「負け」の感覚はかなり減っていった。

このように、私は少しずつ契約交渉に慣れ、心理的な負担も減っていった。

契約交渉における三箇条

そして今となっては、自分なりの「契約交渉における三箇条」のようなものを持っている。

1)自社のスタンスを明確に
2)契約書WORDを見ながら交渉しない
3)メールで交渉しない

まずは、その1【自社のスタンスを明確に】である。

ディープテックスタートアップを見ていると、契約ひな形は持っているのに、

・なにが理想形なのか
・どこまでなら譲れるのか
・何が本当に危険なのか

が整理されないまま、契約交渉へ突入しているケースが非常に多い。

すると当然、

「第〇条についてどうしますか?」
「法務からこう言われています」
「この文言、先方が修正したいそうです」という、

“対症療法的な契約交渉”になっていく。

あるいは、経営陣や法務部だけが暗黙知として持っており、現場担当者が共有されていないケースも多い。

相手方 ⇔ 自分 ⇔ 法務/経営陣の往復が延々と続き、現場担当者だけが疲弊していく。

自社のスタンスは交渉の冒頭で明確に述べるべきだ。その認識が揃ってはじめて、無駄のない交渉ができる。


次は、その2【契約書WORDを見ながら交渉しない】である。

契約交渉というと、

「第5条のこの文言が・・・」
「第8条の責任範囲が・・・」

と、WORDを突き合わせながら細かな文言調整をしていくイメージを持つ方も多い。

しかし、契約交渉がうまい人ほど、実は“条文単体”を見ていない。

もっと抽象度の高いレイヤーで会話している。

なぜなら、契約条項とは、それぞれ独立して存在しているわけではないからだ。

それぞれの会社には、

・どういう事業をしたいのか
・顧客とどのような関係を築きたいのか
・知財をどう守りたいのか
・将来どんな展開を考えているのか

という、“根っこ”がある。

そして、その根っこから各契約条項が生えている。

だから、

「第5条の残存期間は5年で」
「いや10年で」

という枝葉の議論だけをしても、本質的には噛み合わない。

重要なのは、

“なぜその条項を重要視しているのか”

を、お互いに共有することだと思う。


最後は、その3【メールで交渉しない】である。

その2で述べたように、契約交渉の背景には、それぞれの会社としての「根っこ」がある。

つまり、

・事業戦略
・リスク感覚
・社内事情
・将来構想

などが複雑に絡んでいる。

これをメールだけですり合わせるのは、かなり無理がある。

しかし実際には、

「法務部見解としては受け入れられません」
「第〇条について再検討ください」

という淡白なメールの応酬になってしまうケースが本当に多い。

文字だけになると、相手の温度感も人格も消える。

しかも、“拒絶”だけがログとして蓄積されていく。

だから私は、契約交渉はなるべく口頭で、できれば対面で行うべきだと思っている。

最後に

契約交渉が苦しい人は多い。

特にディープテック領域では、

・リスク
・リターン
・知的財産
・役割分担
・独占/非独占

など、論点も複雑になりやすい。

しかし今振り返ると、私自身が最も苦しかった理由は、

「そもそも、自分たちが求める理想とはどんな姿をしているのか」

を自分で定義できていなかったことだと思う。

契約交渉とは、単なる“条文修正作業”ではない。

会社として、

「何を守りたいのか」
「どこまでなら譲れるのか」

を言語化し、相手と共有していく作業なのだと思う。

そして、それが整理されてくると、契約交渉は少しずつ“ゲーム”に近づいていく。

契約交渉で苦しい思いをしている人は、ぜひ相談してほしい。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次