なぜ仕組み化が必要になるのか?
スタートアップ経営者のみなさまとお話しているとき、よく聞く言葉があります。
「営業を仕組み化したいんです」
「SFA (sales force automation)を入れたいと思っていまして」
0→1ステージを超えて、1→10ステージに差し掛かるタイミング。
社長自らが営業現場に張り付き、個の力で突破するフェーズは終わり、「社長でなくても売れる状態」をつくる必要が出てきます。社長の仕事として、全体マネジメント、資金調達、組織構築などの経営の比重が大きくなってくるためです。
その文脈で、「仕組み化」という言葉が出てくるのは、とても自然なことです。一般的に言われる営業の仕組み化とは、販売価格、見積ルール、受注プロセス、進捗管理などを整備することを指す場合が多いでしょう。

仕組み化の罠
しかし、これまでいくつもの現場を見てきた実感としては、「仕組み化」を強く掲げ、「仕組みさえ入れればラクになれるんだ…」と心の中で思ってらっしゃる経営者様ほど、うまく仕組みを定着できないことが多いということです。
以下は、「仕組みを作ったつもりなのにうまくいかない」会社でよく聞かれる声です。
- 商談のスクリプトは作ったのに、現場からの相談や火消し依頼が減らない
- 販売単価を決めたはずなのに、ディスカウントが止まらない
- 経営者にとって「なんでそんな相手に売りたいの?」という案件がバンバン上がってくる
- ルールから逸脱した案件が次々と発生する

「仕組みは整えたはずなのに、なぜか回らない」
これは、仕組みを妄信する会社がしばしばぶつかる壁です。かく言う私自身も、最初は同じ勘違いをしていました。
「とにかくルールやひな形を整備すればいい」そう思っていた時期があります。ですが、実際に現場で何度も失敗を重ねて気づいたのは、問題は“仕組み”ではなかった、ということです。
本質的な問題はもっと手前にありました。それは、「当社はどんな会社になりたいのか」「当社はどんな商売をして、どのように儲けたいのか」ということです。
- 誰に売るのか
- どんな課題を解決するのか
- その課題は市場で広く観測されるのか、特定の顧客限定のものか
- 自社の提供価値はOnly oneなのか、One of themなのか
- その対価はいくらなのか
- 自社はどのように収益化する作戦なのか
思想なき仕組み化の先に待っているもの
つまり、ビジネスの根幹が定まっていない状態で、仕組み化だけを進めてしまっている。この状態で起きるのが、「思想の自由化」です。
誰にでも売る。
頼まれたことは何でも請け負う。
俺は安く売りたい。
私は高く売るのが良いと思う。
案件ごとに判断基準が変わる。
一見すると柔軟ですが、実態はその逆で、会社としての意思が存在しない状態です。当然、その上にどれだけルールを積み上げても、常に自由思想が許される状態です。自由思想というと聞こえはいいですが、会社のすべきことは「再現性よく儲かることをひたすら繰り返す」ことです。

事業のあるべき姿が定まっている会社では、少し様子が異なります。基盤さえあれば、ルール化やひな形作成などといった仕組みは数か月もあれば完成します。仕組み化の本番である、導入した後のPDCAに集中できます。
そのような会社の営業組織には、共通する特徴が見られます。
- 顧客との会話は、コストベースではなくバリューベースで進める
- Howよりも、Why・Whatを重視する
- 「当社はこのような考え方でやっております」と明確に言い切れる
- マッチしない顧客は無理に追わない
どんな顧客をターゲットとしているのか。
どんな価値を提供しているのか。
共通の物差しがあるから、現場は自発的に考えて動くし、無駄な議論も、無理な案件も、自然と減っていくわけです。
ではどうすればいいのか?
「仕組み化」は重要ですし、必須です。ただし、それは「当社はどうありたいか」という議論の後にやることです。
順番を間違えると、いくら整えても機能しません。
もし今、「仕組み化がうまくいかない」「仕組み化して事業を伸ばしたい」と焦っておられるのであれば、一歩立ち止まり、「自分たちは、どんな会社でありたいのか、どんな事業をしたいのか」この問いにじっくり向き合う時間を設けることをおすすめします。

私がご提供しているサービス「事業・営業の仕組み化」においても、実際に重視しているのはそこです。そもそもどのような会社でありたいのか、どのような商売をして儲けようとしているのか、具体化・言語化のお手伝いから始めます。
事業や会社のコンセプト・根幹が出来ていれば、仕組み化は何とかなります。スタートアップにおけるたった10人前後の営業チームなら、必ずしもSFAは要らないと思います。むしろ、スプレッドシートで作った方が、事業モデルのピボットも柔軟に効くように思います。
「仕組み化の前にコンセプトから」は、知財戦略や契約ひな形のセッティングにおいても同じことです。
まず、どんな事業をしたいのか。
ヒト・モノ・カネ・知はどのように流れるのか。
これらを決めれば、あとは実務的な話に落とすだけです。

